SAAJ近畿支部第161回定例研究会報告 (報告者: 松本 拓也)

会員番号 2520 松本 拓也

1.テーマ 「個人番号カードの多目的利用の課題と展望」
2.講師 近畿大学 経営学部 教授 津田 博 氏
3.開催日時 2016年9月16日(金) 18:30〜20:30
4.開催場所 大阪大学中之島センター 2階 講義室201
5.講演概要

講師は、現在のお立場になられるまでに地方自治体のCIO補佐官等をご経験され、自治体の情報化に関する研究、特に情報システムの効率的な企画、調達、開発、運用についてご研究されてこられた。今回は講師自身によるアンケート結果をもとに、個人番号カードの多目的利用(「個人番号の利用」ではない)に関する自治体の取組みと課題、今後の展望についてお話しいただいた。個人番号カードに関する行政以外の者による全国的なアンケート調査およびその考察は全国で初めての取組みである。

<講演内容>

(1) マイナンバー制度の概要

マイナンバー制度は、複数の機関に存在する個人情報を同一人の情報であるということの確認を行うための基盤であり、社会保障・税制度の効率性・透明性を高め、国民にとって利便性の高い公平・公正な社会を実現するための社会基盤(インフラ)である。
個人番号(マイナンバー)は社会保障・税・災害対策分野の中のうち、法律で定められた行政手続きにしか使用できない。
個人番号カードは、各種手続きにおける個人番号の確認及び本人確認の手段として使用する。個人番号カードの多目的利用については、公的認証の利用と各自治体が制定した条例による独自利用がある。

今回の講演では、上記を前提とした上で、個人番号カードを使った自治体の独自サービスについて報告の対象としている。

(2) 住基カードと個人番号カード

住基カード(住民基本台帳カード)と個人番号カードを比較するとともに、住基カードの多目的利用状況、電子証明書の発行等の手続きイメージについても説明された。

(3) アンケート調査概要

2016年初めに以下のようなアンケートを実施した。

【目的】:地域の特色に合った住民のために、個人番号カードの多目的利用を考える基礎資料になること
【調査対象】:全国の市区町村
【実施時期】:2016年1月から3月
【配布数】:1,532団体
【回収数】:446団体
【回収率】:29.1%
【調査方法】:自治体のホームページの問い合わせフォーム又はメールアドレスを活用し、メールにてアンケートを送付した。質問内容は、個人番号カードの発行枚数等の基本的な情報から、個人番号カードの多目的利用に関する方針の有無、サービス内容の検討状況、多目的利用推進の全体的な課題など。

(4) 個人番号カードの多目的利用推進に関する課題

今回得た回答においては、コンビニ交付、自動交付機での利用、図書館貸出カード、印鑑登録証明書等のサービスや、医療・福祉関連分野での利用、自治体独自マイレージや自治体独自発行のカード機能(施設利用、高齢者バス割引等)の付加等、多くのサービス案が検討されている一方、個人番号カードの多目的利用の方針については、検討中もしくは未定・空白とする自治体が多いことが分かった。
今回の講演では、講師がアンケート回収後、多目的利用推進の全体的な課題を分析し、また必要に応じて自治体に対し電話インタビューを実施した結果についても、利用者視点と行政視点に分けて報告された。利用者視点では、カードの取得(普及)、利用者のニーズや制度理解、セキュリティに関する課題が挙げられた。行政視点では、コスト・費用対効果、自治体の取組、カードの仕組み、民間利用、地域特性に関する課題が挙げられた。
個人番号カードの多目的利用を推進する上で、コスト・費用対効果面以外に、利便性とセキュリティのバランスが大きな課題となっている。個人番号カードに多くの機能を持たせることで、個人番号を利用しない場合でも携帯する必要が生じ、セキュリティリスクが高まるなどの懸念が自治体からも意見として挙がっている。現在の自治体は、セキュリティを可能な限り厳しくし、その中で利便性を高めるとして取り組んでいるが、確保しなければならないセキュリティレベルが明確ではないため、利便性向上への取組みについても苦慮しているとのこと。

(5) 個人番号カードの多目的利用に関する展望

個人番号カードの多目的利用の拡充のためには、ワンカード化、個人番号カードを用いた情報システムへの安全なログイン(電子証明書等)の確保が必要となる。医療・介護、金融、教育等の分野での連携の要望はあるが、カードの普及、投資効果、住民の理解、セキュリティへの不安等からもすぐの実現は難しいとのこと。

6.所感

自治体における個人番号に関する安全管理措置等の取組については、仕事柄、ある程度知っていたが、カードの多目的利用に関してはこれまであまり実態を把握しておらず、よい勉強になった。コストや費用対効果の面も気になるが、利便性とセキュリティのバランスについては、個人番号に限らず、また自治体に限らず必ず共通の課題と考える。
また、講演後の意見交換では、民間向けのアンケートの実施なども提案され、今回のアンケート結果で挙げられたようなサービス内容と、民間が求めるサービス内容がどのようにマッチするのか、大変興味深い内容であると考える。

以上