IT-BCP体験セミナー 開催結果報告(報告者:荒町 弘)

会員番号 1709 荒町 弘

1.セミナー名称 : IT-BCP体験セミナー
2.開催日時   : 2016年7月30日(土)13:00~17:00
3.開催場所   : 大阪市ICT戦略室内 研修室
4.当日参加者  : 受講者 16名
 スタッフ 荒町、尾浦、金子、松井、伊藤(BCP研究プロジェクト) 福本、三橋

 

5.開催報告

bcp_20160730_01本セミナーは大阪市ICT戦略室からの実施依頼に基づき開催しました。大阪市ではICT-BCPの策定を今年度実施するにあたり、幹部職員を中心とするメンバーに対して意識付けを行うための研修を行いたい、という意向から当協会のセミナーグループに相談を頂戴しました。近畿支部BCP研究プロジェクトでは、今回、「個別セミナー」でのBCP体験セミナー実施を検討し、開催の運びとなりました。
受講者にはあらかじめ当日の演習で用いるA社に関する情報を事前配布資料として提供し、事前学習のうえ、体験セミナーに臨んでいただきました。
カリキュラムは3つの講義と演習2題から成っており、オリエンテーションの後に講義1、続いて演習2題を実施した後、講義2講義3を行っていただきました。演習課題では大規模災害発生時の企業IT部門担当者の立場で初動対応について検討いただきました。16名の受講者は3つのグループに分かれてグループ討議を行いリーダーが検討結果を発表するという流れで、8つの課題を限られた時間の中で検討し、結果をチームごとに発表するというものであり、緊張感のある体験演習を行っていただきました。チーム単位での検討結果の発表後は、講師講評を踏まえて受講者全員で成果の共有を図りました。bcp_20160730_02

5.1 オリエンテーション(担当:荒町氏)

セミナー開催にあたり、オリエンテーションとして以下の説明からスタートしました。
・SAAJ近畿支部BCP研究プロジェクトの活動概要
・IT-BCPの普及状況や東日本大震災の教訓としての災害時における初動の重要性
・当セミナーの目的とするところについて

5.2 講義1:「自治体ICT-BCPの現状と想定外への対応」(担当:松井氏)

1つ目の講義として、 と題した講義を行いました。講師自らが経験してきたBCPの実効性を高めるための取組みの紹介に続き、ISOや各種ガイドラインが推奨している事項について触れました。ISO22301では、策定したBCPの実効性を検証する要求事項として「演習およびテスト」を、実効性を高める取組みとして「意識・能力の向上、および訓練プログラム」が推奨されています。経済産業省ガイドラインにおいては、BCPの有効性を確認する手段として「テスト」を、BCPの維持を確認する手段として「監査」が言及されており、総務省のガイドラインでは「簡易訓練」「定期的な訓練」の実施が必要不可欠であると述べられています。
BCP訓練の必要性が述べられている一方で、実際にはBCP訓練が行えない組織が多い。「負担の少ない訓練・演習の方法」「本番環境に影響を与えない訓練・演習の方法」を周知することで、訓練・演習を実施する組織を増やすことができるのではないか、そのための取組みとして「実機訓練」と「机上訓練」がある。
bcp_20160730_03「実機訓練」と「机上訓練」の双方から得られた気付きと成果や注意点に関すること、それぞれの比較について解説を行いました。比較の結果、本番環境への影響が少ない「机上訓練」からの取り組みを行い、予備機を用いた訓練、本番機を用いた訓練へと段階的に取組みを進めることで訓練の限界を広げていくのが良いのではないか、という提案もありました。
最後に、想定外への備えについてICT部門としてどのように認識し、どのような準備が必要で、どのような対応がとれるのか、という問題提起とともに、訓練を段階的にステップアップする方法の紹介をもって講義を終了しました。

5.3 グループ演習 (担当:金子氏/尾浦氏(講評担当))

受講者には、近畿圏で30店舗の運営を行う中堅流通業を営む企業A社のIT部門担当者の立場で、大規模災害が発生した直後に起こる8つのシーンに対してどのような初動対応を行うのかということについて検討し、グループで共有・討議のうえリーダーに発表してもらうという流れで演習に取り組んでもらいました。bcp_20160730_04

①8つの課題を10分間自分自身で考え、対応内容を記した付箋を貼り付ける (所要時間10分)
②グループメンバ全員の付箋を模造紙に貼り・共有・討議し、意見をまとめる(所要時間20分)
③グループごとに検討結果を発表する(所要時間5分)
演習では、検討課題に対して意図的にタイトな時間設定とし、限られた時間内で多数の案件を一度に迅速に意思決定する重要性に気付いていただく狙いで、インバスケット研修の手法を採用しました。

(1)演習1(災害発生直後の初動対応)

災害発生直後に起こる社内各部署からの問い合わせ等に対して、IT部門としてどのように判断・対応するべきかを検討していただきました。
・優先順位付け、どの部署の誰にどのように指示を行うか等bcp_20160730_05

(2)演習2(IT-BCPのポイント検討)

 IT部門として、何を事前に準備・計画していればより適切な対応が可能であったかを検討していただきました。
・行動計画/ルール、危機対応時に有効な文書/資料、ダメージを少なくする事前対策等

(3)講師講評/演習の解説 (担当:尾浦氏・金子氏)

 各チームの発表内容に対し、講師側から実務体験も踏まえて講評を行いました。また、8つのシーンの設定の背景と初動対応、及びIT-BCP策定のポイントについて解説しました。

5.4 講義2:「自治体のための演習補講」~地防計・全庁BCPとIT-BCP~ (尾浦氏)bcp_20160730_06

2つ目の講義は、グループ演習の補講として、そして地域防災計画・全庁BCPとIT-BCPという視点での講義を行いました。グループ演習の補講としては、演習課題のいくつかのシーンをモデルに、その状況が発災に関して「覚知」の段階なのか、「情報収取・分析」あるいは「災害対策本部設置 BCP発動」のどの段階にあると想定されるか、といった課題提起からはじまり、タイムラインを意識したBCP対策の必要性等について事例を交えての講義を行いました。
発災後の経過時間ごとにフェーズを4段階で分け、部局ごとに異なるBCP対象業務があり、応急対策を要する業務と通常業務との区分に応じた対応の考え方などについて、講師ご本人の経験も踏まえて解説しました。

5.5 講義3:「組織のBCPを確実に動かすために必要なもう一つの準備」

~職員の参集率と家族の危機管理~(伊藤氏)
bcp_20160730_07大規模災害発生直後には職員の安否確認や参集可否などの確認が行われ、組織の復旧への行動や市民の生命・財産を守るための行動が行われます。この際、職員自身がいち早く職務に専念できるためには、自らの家族の安否確認ができていることが前提になると考えられます。このように、危機管理に必要な要素として、家族の危機管理も大きな部分を占めると考えられ、家族の危機管理が(事前準備と災害直後の対応)ができてこそ、組織の危機管理・地域への貢献ができるものと考えられ、「公助の限界」を大きく広がられるヒントがあるものと思われます。
本講義では家族の危機管理に対する考えや、災害発生直後の行動基準を定め公表している自治体の事例紹介、民間企業でのBCP策定・実践例などの紹介を行いました。
講義後、勤務時間中に巨大地震発生によりインフラサービス停止(停電発生)した場合、何に困るか、その事象は事前対策可能なものか、その後の判断により対応を取らなければならない事象なのか、についてグループでディスカッションいただき、グループ発表を行っていただきました。

6.受講された皆様の感想

受講された皆様からは、以下のようなご意見をいただきました。(アンケートから抜粋)
・これまでに総務省の資料を読むなどしてわかったつもりになっていても、制約された時間の中で発想すると、わかっていなかったことに気づくことができた
・今日の目的がBCPの早期作成であるため・発災時にしなくてはいけない事/判断しなくてはいけないことの気づきがありました。
最後の自組織の課題検討は課題が少しバクっとしていて取り組みにくかった
・普段はあまり考えない状況について検討する機会となった。
・テンションが上がった
・時間がない中で判断していく難しさと重要性が実感できた。
・BCPを作成するための気づきになり有意義でした。
・IT-BCP策定に向けて基礎的な知識を得ることができた。
・初動対応時にすべき行動を考えると なかなか思いつかず、事前の対応が必要であることに気づいた。
・ICT-BCPの着眼点が明確に解説していただいている。

7.感想

今回はBCP研究プロジェクトとしても初めての「出前セミナー」でありました。受講者も政令指定都市のICT-BCPの策定と運用を担う方々ということもあり、スタッフ一同もいつも以上に緊張して臨んだセミナーでありました。受講いただきました皆様には、グループ演習を通じて、ICT-BCP策定のために役立つ「気づき」を幾分か得ていただけたのではないかと思います。
大阪市ICT戦略室として、災害発生時の初動の判断や、災害が発生した際に被害を最小限にするための備えは何なのか、事前に決めておくべきルール・計画は何なのか、ということについて整理する機会を持たれる際に本セミナーでの「気づき」がお役に立てれば幸いと考えます。
受講者の皆様、スタッフ/関係者の皆様、ご協力ありがとうございました。

以上