SAAJ近畿支部第148回定例研究会報告(報告者:竹下 健一)

会員番号 2083  竹下 健一

1.テーマ   ソフトウェア著作権研究プロジェクト中間報告
2.講師

大阪成蹊大学名誉教授 松田 貴典 氏

京都聖母女学院短期大学 生活科学科 准教授  荒牧 裕一氏

3.開催日時  2014年9月19日(金) 18:30~20:30
4.開催場所  大阪大学中之島センター 2階 講義室201
5.講演概要

講演1 「情報通信技術関係者が知るべき著作権の基礎」

saaj_20140919_01ICT(情報通信技術)が一般社会や企業のなかで深化し、ソフトウェアや情報システムの著作権に関連するコンプライアンス問題は深刻な事態になってきている。近年、ソフトウェアの不正コピーや他人の著作物の無断HP掲載、ソフトウェア開発委託と保守問題など、ICTに関連した事件や訴訟が多発している。このような状況の下で、昨年度より始まった「ソフトウェア著作権研究プロジェクト」の中間報告に併せて、その前提知識としてシステム監査人(広く情報通信に携わる技術者)が知るべき著作権の基礎について説明された。
講演は、「知的財産権と著作権」、「著作物と著作権」、「著作者の権利」など、著作権に関わる一通りの基礎知識を詳しくご解説された後、システム監査を行うにあたってのソフトウェアの著作権に関わることの説明があった。

(1)プログラムの著作権

・著作権法は1985年に大きく改正され、プログラムが著作権で保護されるようになった。
①プログラムを著作物として明文化。
②著作者には、一身専属性である著作者人格権が付与されることになった。著作者人格権には、公表権、氏名
表示権、同一性保持権がある。
③プログラムの創作年月日の登録制ができた。
・ 「法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作者」を原則として
人(法人著作、職務著作)とした。
・ソフトウェアのバージョンアップ、プログラムバグ(間違いや誤り)等によりプログラムの変更や改変が必要となる。
著作権法第20条第2項第3号ではプログラムに対する特例として、「特定の電子計算機においては利用し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において利用し得るようにするため」の必要な改変と「電子計算機においてより効果的に利用し得るようにするため」の必要な改変については同一性保持権の侵害にならないとした。

(2)データベースの著作権

・データベースに関する著作権改正は1986年に一部実施され、1987年1月1日に施行された。
・改正法では、データベースを「論文、数値、図形その他の情報の集合物であって、それらの情報を、電子計算機を用いて検索できるように体系的に構成したものをいう」と定義するとともに、編集著作物とは別に、「データベースでその情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するもの」は、著作物として保護されることになった。

(3)プログラム著作物の登録

・1985年の著作権法の一部改正で、プログラムの著作物の創作年月日の登録制度が設けられた。
・著作権や著作隣接権の譲渡、担保権の設定、出版権の設定には登録をしなければ第三者に対抗することはできない。しかし、現実には、著作権の登録なしに当事者間において、著作権等の譲渡、移転等が行われているわけであり、第三者との関係で対抗要件として登録しておかなければならない。
・登録できるものとしては次のとおりである。① 実名の登録、②第一発行年月日の登録、③創作年月日の登録、④著作権・著作隣接権等の移転等の登録、⑤出版権の設定等の登録。

講演2 「ソフトウェア著作権監査のための各種ツールの提案」

saaj_20140919_02ソフトウェア著作権研究プロジェクトでは、まずソフトウェア著作権をタイプ別に分類し「ソフトウェア著作権チェックリスト」としてまとめた。そして、管理に不可欠な「ソフトウェア管理台帳」の標準化作業を行うとともに、被監査企業の管理水準の目安となる「ソフトウェア著作権管理の成熟度モデル」を作成した。プロジェクトの成果物として、これらのツールの概要の説明をうけた。

(1)プロジェクト発足の経緯と活動状況

・プロジェクト期間 2013年4月~2015年3月(2年間)。
・コンプライアンスのシステム監査(CP研)の成果を受け、分野別により深い研究の必要性を認識。
・「ソフトウェア著作権」を対象に選んだ理由は、①昔(1970年)から存在し頻繁に改正がある、②どの企業(業種)でも共通して問題になる、③違反には刑事罰がありリスクが高い、④内容が複雑で共同研究に適している。
・成果物として以下の3点を作成している。
①「システム監査チェックリスト(ソフトウェア著作権)」
②「ソフトウェア管理台帳」
③「ソフトウェア著作権管理の成熟度モデル」

(2)システム監査チェックリスト(ソフトウェア著作権)

・ソフトウェア著作権に関する注意事項を導入形態別(譲渡契約、ライセンス契約など8形態)に分類。
・特に、委託開発を中心に検討している。
・今年度後半は、「監査の進め方」に関する注意事項をまとめる。

(3)ソフトウェア管理台帳

・SAMユーザーズガイドにおける台帳の項目をたたき台とし、必要な項目を追加している。
・SAMユーザーズガイドは購入を対象としているので、委託開発の場合に必要な項目を検討する。
・関連台帳について
-委託開発の場合、「ライセンス管理台帳」は分けなくても良い。
-委託開発、購入ともに、「関連部材台帳」はソフトウェア管理台帳の該当欄で管理可能である。

(4)ソフトウェア著作権管理の成熟モデル

・ソフトウェア著作権の管理レベルを0~5の6段階に分類(表現はSAMユーザーズガイドに合わせた)。
管理レベル0 : 管理が存在しない段階
管理レベル1 : 初期・場当たり的な段階
管理レベル2 : 反復可能な段階
管理レベル3 : 定義されている段階
管理レベル4 : 管理されている段階
管理レベル5 : 最適されている段階
・それぞれの段階において可能な監査の種類を提示した。
・予備調査の段階で管理レベルについての評価を行う必要がある。

6.所感

 最初に松田先生から著作権の基礎内容の解説とソフトウェア著作権におけるポイントを説明されたことで、前提の知識の整理ができ、ソフトウェア著作権研究プロジェクトの中間報告を聴講することができた。研究プロジェクトの成果物である「システム監査チェックリスト(ソフトウェア著作権)」、ソフトウェア管理台帳、ソフトウェア著作権管理の成熟モデルはいずれもシステム監査の現場で実用的に使えるものと感じた。今後さらにブラッシュアップして完成を目指してもらいたい。

以上