SAAJ近畿支部第160回定例研究会報告 (報告者: 是松 徹)

会員番号 0645 是松 徹

1.テーマ 「医療情報システム監査の意義と今後の情報部門の役割について」
〜病院間相互監査&ワークショップセミナーの取り組みを通して~
2.講師 池田市地域活性課 課長 藤本 智裕 氏
(前:市立池田病院経営企画室 室長)
3.開催日時 2016年7月15日(金) 18:30〜20:30
4.開催場所 大阪大学中之島センター 2階 講義室201
5.講演概要

講師は、今年の春まで市立病院の経営企画室長の立場で、長年、経営企画から診療支援、診療情報管理、情報システム等に至るまで、幅広く病院運営に携わってこられてきた。その中で医療情報システムの監査にも取り組まれており、これらのご経験を踏まえ、今回の講演では、医療情報システム(電子カルテ等)の動向、医療情報システムの安全対策と監査及び課題、病院相互監査の取組み、監査ワークショップセミナーの取組み等についてお話しいただいた。

<講演内容>

(1) 医療情報システム(電子カルテ等)

医療情報システムは、医事会計システムを皮切りにオーダリングシステム、電子カルテシステム、地域電子カルテシステムと進化してきており、ゲノム・再生医療、診断支援DSS、臨床研究、ビッグデータ、地域SNSとの関わり等の高度化が期待されている。昨今、他医療機関からの電子カルテ参照が可能となり、他施設・他職種連携の時代へと向かっている。医師と患者間の「情報の非対称性」が言われる中で、医療情報システムには高度な専門性を背景とした多様な要求への対応と安全性が求められている。

(2) 医療情報システムの安全管理

診療録の記載・電子保存の面では、「医師法24条」「歯科医師法23条」「e-文書法」に準拠し、真正性、見読性、保存性確保への留意が必要である。加えて、医療に関わる情報を扱うすべての情報システムとそれらの導入、運用、利用、保守及び廃棄に関わるすべての組織を対象とした「医療情報システム安全管理ガイドライン」が厚労省から公表されており、電子的な医療情報を扱う際の責任のあり方や情報の相互利用と標準化、情報システムの基本的な安全管理、電子保存の要求事項、運用管理についての指針が示されている。

(3) 医療情報システム安全管理評価制度(PREMISs)

「医療情報システム安全管理ガイドライン」を適用指針として、(財)医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)が技術面、運用面の観点から客観的にその安全性を評価する制度である。本制度は、安全性の担保力を客観的に評価する事、及び安全性と利便性・効率性、経済性とのバランスをとる事を目的としている。 受審側は、自己評価をした上で書類審査と現地審査を受け、合否判定と合格レベルとして3段階評価が下され、認定証を受領する運びとなる。本制度の活用としては、外部監査としての利用(システム導入済)と導入時の検収ツールとして利用(システム導入予定)が考えられる。

(4) 病院情報部門が抱える課題

講師の所属組織が加入している某ベンダのユーザ会で、情報部門が抱える課題の把握のためにアンケート等から課題を抽出し分析を行った。課題を以下の7分野に分類し、それぞれに①機能改善、②運用ノウハウ、③教育・セミナー、④営業支援、の優先度から解決策を検討した。
【課題】:1.経営、2.企画導入・レベルアップ、3.調達、4.運用管理、5.データ分析・活用
6.ガバナンス、7.コンピテンシー
結果、運用管理に関する課題が全体の約6割を占め、その解決策としてはコンテンツの拡充が多数提示された。開発⇒導入⇒運用⇒改善のサイクルにおいて、運用⇒改善から開発にフィードバックして機能改善につなげる流れが必要であり、運用管理ノウハウとして職人技から仕組みへ、暗黙知から形式知へと移行する「運用管理規定」の重要性が改めて認識された。

(5) 病院間相互監査(内部監査)の取組み

公的認定を受けた専門知識や経験を有する監査員等が、互いの病院をPREMISsに準拠した共通の仕組みの下に内部監査を行い、継続的改善を図る取り組みである。監査結果は病院長に報告し、組織を巻き込むことに留意している。公的認定資格には、講師が保有する公認医療情報システム監査人(MISCA)、上級医療情報技師等がある。「医療情報システム安全管理ガイドライン」を根拠指針とし、医療情報安全管理監査人協会が公表している「監査実践ガイド」を参考とした内部監査の手順に則り、監査計画書の作成、監査の実施と講評会開催、監査報告書の作成・提出、監査対象部門から提出される改善報告書等を踏まえたフォローアップ監査を実施する。

(6) 医療情報システム監査ワークショップの取組み

 近年のパッケージ化・ネットワーク化により運用管理に関する課題が多様化し、運用管理規定の重要性が高まっていることを背景に、「医療情報システム監査ワークショッププログラム」を開発し、継続的改善を図ることとした。複数病院(2施設)でグループとなり、監査対象側と監査側を交代して持参した運用管理規定を相互監査する進め方で実施した。ワークショップは、2013年度の福岡での試行を皮切りに、2014年度に東京(11施設17名)、名古屋(11施設19名)、札幌(10施設14名)と計3回開催した。
受講後のアンケートからは、単に知識の習得だけでなく、多様なワークショップの実践により実際の改善行動につなげることができたとの結果が読み取れた。課題が複雑化する中、人財教育の在り方として、座学だけではないワークショップの有効性が示唆されたと考えている。

6.所感

重要性を認識しつつも接点のなかった医療情報システムの動向と運用側の医療機関の取り組み実態を改めて知ることができた。また、医療情報システムに求められる3原則(真正性・見読性・保存性)と利便性のバランスは所謂攻めと守りの話であり、医療分野に限らずセキュリティ面での共通の課題と考
える。今回のご講演では、説明の合間に随所でなされた講師の勤務先・池田市の紹介が効果的であった。その中で「呉春」が池田市の地酒と知ったことは、左党の私にとってこれまた有益であった。

以上