SAAJ近畿支部第152回定例研究会報告 (報告者: 是松 徹)

会員番号0645: 是松徹

1.テーマ  :「失敗したITプロジェクトの真の原因に迫るマンダラ図の紹介」
2.講師   :公認システム監査人 松井 秀雄氏
3.開催日時 :2015年5月15日(金) 18:30~20:30
4.開催場所 :大阪大学中之島センター3階 講義室301
5.講演概要 :

 20150515「ITプロジェクトで失敗を経験した後、何を学び、何を語り継ぐべき?」との命題を掲げて研究を進め、その成果としてまとめられた失敗を究明する手法である「【ITプロジェクト版】失敗原因マンダラ図」(以後【IT版】マンダラ図)について、構築の経緯・内容と活用事例等についてご講演いただいた。また、関連して失敗から学んだことを整理し共有する手法である「AAR(After Action Review)」(アメリカ陸軍の事後検証メソッド)について紹介いただいた。

(1)現状と背景

 プロジェクトマネジメントに関する手法や文献が世の中に数多く紹介され、知見、ノウハウ等の蓄積も進んでいるように見えるが、プロジェクトの成功率は31.1%、ユーザー満足度は10%と低調であり、依然として多くのプロジェクトが失敗している実態がある。 失敗原因として、要件定義不足、プロジェクト管理の不備、システム導入後の効果があいまい、思い込みと確認不足等が事例として公表されている。今回の研究のきっかけは、システム開発の各局面では順調に進捗した(ように見えた)が、いざふたを開けてみると機能不足が判明した失敗事例である。

(2)研究の目的

 過去から同じ失敗を繰り返しているのは、真の原因が特定できていないからと考える。そこで、「失敗の真の原因を客観的かつ網羅的に把握する」ことを研究の目的として設定した。研究母体は、関西IBMユーザー研究会・IT研究会分科会であり、アドバイザーとして参画した。

(3)研究内容

①従来の特性要因図やなぜなぜ分析に限界がある中で客観性、網羅性を満たす手法はないか、IT業界から離れて視野を広げて探索すればどうか、とのアプローチから、失敗学会の「失敗原因のマンダラ図」に行き着いた。
②マンダラ図自体や考え方は流用可能と判断し、IT業界へ適用できる内容への再構築を検討した。
③検討メンバ各自(各社)の失敗事例から失敗原因を洗い出し、全員分を統合してマンダラ図案を作成した。
④マンダラ図案に対し、以下の観点から整理を行った。
・項目の統合&削除  ・階層の深さ  ・各階層の粒度  ・言葉の意味  ・分類の見直し
⑤最後に、書籍の事例を用いてマンダラ図案の網羅性を精査し、【IT版】マンダラ図として完成させた。結果として、各社事例(61事例)と書籍事例(161事例)をもとに49個の失敗原因が抽出できた。
⑥【IT版】マンダラ図は失敗学会からも一定の評価が得られ、信頼性が確保できたと考えている。

(4)【IT版】マンダラ図使用方法のご紹介

失敗事例について【IT版】マンダラ図を使用した分析の流れは以下となる。
Step1:関係者各自が【IT版】マンダラ図から失敗原因を抽出
Step2:関係者各自が抽出した失敗原因を集約
Step3:失敗原因を選定
Step4:真の失敗原因を特定
Step5:再発防止策を検討

(5)活用事例

【IT版】マンダラ図の活用事例として以下が考えられる。
① プロジェクトの振り返り:失敗について、網羅的な原因分析と再発防止策の策定が実施できる。
② システム監査:真の失敗原因を探り出し、有効な改善提言が表明できる。
③ 若手社員の育成:上司と若手の共通ツールとして原因分析等に活用し、若手に気付きを与える。
④ 統計:真の失敗原因と複数の統計項目を組み合わせ、統計情報として管理できる。

(6)課題

ITプロジェクトの失敗原因を検討する目的で作成したため、IT運用、IT企画等の他の用途への適用検討が今後の課題である。

(7) AAR(After Action Review)手法の紹介

 グループで以下を討議し、事後検証する手法である。【IT版】マンダラ図が③で活用できると考える。
① 我々は何をやろうとしたのか?
② 実際には何が起きたのか?
③ 当初の目的と実際の結果の違いは何故起きたのか?
④ 次回なすべきことは何か?

6.所感

依然として問題が多いITプロジェクトの真の失敗原因を探り出すツールとして新たに提唱された「【IT版】マンダラ図」は、その構築過程の確かさから有効性が大いに期待できると感じました。失敗については輻輳した多様な原因があるため、なかなか特効薬はないと考えますが、いずれにしても真の原因を分析し、地道に対策を講じていくことしかないと思います。本マンダラ図を継続してブラシュアップしていただき、有効度を高めていただくことを期待しています。