SAAJ近畿支部第144回定例研究会報告(報告者:鬼松 嵩)

1.テーマ :「新しい『IT事業者評価制度』導入の政策提言」
2.講師  :株式会社エスシーエイエヌ 代表取締役 中田 和男 氏
3.開催日時:2014年1月17日(金) 18:30 ~ 20:30
4.開催場所:大阪大学中之島センター 講義室201
5.講演概要:

【参考】
SAAJ近畿支部創設25 周年記念研究大会の研究論文が下記に掲載されています。20140117nakata
http://www.saajk.org/?p=838

IT事業者の経営力・技術力を総合的・客観的に評価する制度・基準が存在すれば、官公需入札での合理的な発注先選定、システム監査上での開発・運用業者の力量確認の大幅な効率化に加え、IT事業者自体の健全なる発展の指針として寄与できる。
建設業の経営事項審査制度を参考に、IT産業に適合した採点方式を一つの案として提示する。

(1)現状の問題点整理と政策提言のテーマ選定

「無制限な規制緩和」の拡大により、IT業界ではソフトウェア品質悪化や国際競争力低下につながった。今日の業界構造変化をとらえ、IT業界の再生に寄与する政策を提言できないかと考えた。

(2)既存のIT事業者の評価制度の調査~当事者の外部からの目線での検証~

既存の評価・認定制度について調査した結果は下記のとおりである
①SI登録・SO認定制度
「認定」「非認定」の二分法止まり。既に廃止された制度である。
②ISO9000、ISMS、ITSMS
国際性があるが、客観性が弱い。利益相反の疑念を払拭できない。
③CMMI
国際性があるが、客観性が弱い。
④その他
一部の官公需入札で高度情報処理試験合格者のアサインを要件化しているが建設業技術者のような法的な厳格な適用ではない

上記のとおり、既存のIT事業者評価制度では、業者の選定、技術者のアサイン判断には不十分であり新しい「IT事業者評価制度」導入は必須である。

(3)IT産業の定義と分類

IT産業の定義は、日本標準産業分類に準拠し、中分類を「情報サービス業」「インターネット付随サービス業」の二つとし、小分類に、「システム監査サービス業」「情報セキュリティ監査サービス業」を新設し、「IT産業の分類(案)」とした。

(4)新しい「IT事業者評価制度」の在り方とは?

以下の5点を要件とした。
①技術力の評価のみにとどまらず、経営力や社会性等の諸項目をバランスよく配分し、事業者全体の力量が評価できる体系とすること
②IT事業分野全般を網羅し、適切なカテゴライズがされていること
③認定・非認定の二分法でなく、点数化により各事業者を明確に順位付する相対的評価であること
④制度自体が持続性・柔軟性に優れており、継続的な運用が可能なこと
⑤評価手続きの費用の経済性があり、実務上、申請者の負担にならないこと
さらに、建設業法における経営事項審査制度のフレームワークを活用しつつIT業界の特性・実情を踏まえ、一部の評価項目の内容と点数を修正した採点方式を採用し、綜合評点の算出式、採点シートの案を提示した。

(5)期待される効果 ~広く国民に受益のある制度~

本制度の導入によって、下記の効果が期待できる。
①官公需入札での条件化による、合理的な発注先選定及び成果物品質の向上
②客観的な点数評価及び可視化による競争の透明性の確保
③システム監査に際して、開発する開発・運用業者の力量確認の制度向上及び大幅な効率化
④IT業界の人材育成・技術者評価への意欲向上による優良事業者の育成、及び国際競争力の強化

(6)今後の検討課題

下記をはじめとして、数々の検討課題がある。
①政策として実現するためのロビー活動
②監査の効率化のための活用方法
③SOHO事業者の取り扱い
④入札時の一定要件の技術者アサイン

(7)まとめ

①従来の諸制度の短所を補完する、新しい「IT事業者評価制度」の導入を政策提言する。
②経営力・技術力等の諸項目を点数化・集計することで、順位づけを可能にして客観性を確保する。
③入札の透明性・適性性の確保、優良IT事業者の育成・分別、システム監査における効率化及び監査領域の拡大等の、多岐にわたり多大な効果が期待できる。
④制度を活用し定着させ、IT業界全体の改革の推進、官公庁や一般企業の情報システムのレベルアップ、IT技術者の能力や待遇向上等、さらに広く国民への受益につなげていく必要がある。

6.所感

綜合評点算出のための計算式、採点シート、評価項目が詳細に検討されており、大変興味深い。
会場から「サービス業において品質・顧客満足に関して客観的に評価されるのが当たり前となってきており、IT事業者も評価基準を持つべき」との意見があり、同感である。今回の講演を通じて、IT業界の健全な発展にはIT事業者・IT技術者が正当に評価される仕組みづくりが重要であると感じた。将来の評価制度の導入に期待したい。

以上