会員紹介記事Vol.004 福本洋一様

・実施日:2012年12月6日(木) 18時~19時半
・場 所:弁護士法人第一法律事務所
・面談者:福本 洋一弁護士
・取材担当:神尾博、林裕正、金子力造

1. システム監査、及びSAAJとの関わり等について

Q.システム監査、及びSAAJとの関わりの経緯について教えてください。

Exif_JPEG_PICTURE大学入学時が丁度、インターネット元年と言われる1995年であり、またWindows95が発売された年でしたので、その延長で情報システムには興味を持つようになりました。
弁護士登録から3年目に入った頃に関わったプロジェクトで、大阪市立大学の松田先生とお知り合いになり、システムの専門家の側から法律を研究されているのが非常に斬新だと感じ、自分は法律の側からシステムを研究してみたいに思うようになりました。
また、松田先生との雑談の中でシステム監査の存在を知りましたが、当時は弁護士でシステム監査技術者は東京に一人しかいないようでした。そこで、今なら資格を取得すれば西日本で唯一のシステム監査技術者兼弁護士になれると考え、独学で勉強して何とかシステム監査技術者の試験に合格しました。
弁護士は情報技術というと敬遠される方が多いですが、弁護士とシステム監査のアプローチは、基準に照らして事象を捉えるという面で似ている部分があり、自分としてはシステム監査に余り抵抗はありませんでした。松田先生や当時の支部長であった吉田さんにご紹介をいただき、近畿支部の研究会に参加するようになりました。

Q.弁護士としての仕事とシステム監査との関係について

情報システムとの関係で取り扱う案件としては、情報資産の取扱いに関連するコンプライアンスや内部統制等の整備支援、情報システムの権利関係に関する契約の検討や紛争・訴訟対応等があります。システム監査の視点は、弁護士としての執務においても情報システムに対する理解に役立ちますし、システム監査技術者ということで、クライアントから情報技術に関する知識について信頼してもらえます。

Q.趣味や嗜好で、ITやシステム監査と繋がっているなと感じることは?

新旧問わず建築物に興味があります。いかに大きな建築物でも、計算された設計と人間による小さな作業の積み重ねによって造られており、情報システムも同じようなことがいえると思います。建築物も情報システムも、綿密な準備と努力を積み重ねることの大切さを感じることができます。私は海外旅行があまり好きではないのですが、ガウディの建築物は見に行きました。いずれも他の者には思いつかないような独創的なもので、一見の価値はあると思います。

Q.SAAJや近畿支部への貢献についてExif_JPEG_PICTURE

弁護士でシステム監査技術者という特異性を生かして、法律家の立場から、システム監査に関わる情報提供をしていきたいと考えています。そのため、コンプライアンスのシステム監査研究会やクライド研究会にメンバーとして参加しています。また、今年の定例研究会では、マイナンバー制度の解説をさせて頂きました。

2. 最近の事件や動向について

Q.最近、話題になった事件についてどう思われますか。
ファーストサーバの事件で、改めて分かったことは、クラウドサービスはリスクが高いと言うことだと思います。
システム開発委託契約関連の相談でも、基幹系システムをクラウドにしたいと言う案件が多くなっていますが、自社の情報を外部に出すことに対して安易に考えている場合が多いように思います。その原因として、「情報」の特性として「情報」そのものは所有権の対象にならないことが意識されていないこと、すなわち、著作権や営業秘密等として特別に保護される情報以外は誰でも自由に利用でき、情報に対する独占的・排他的な支配は「情報」を格納する媒体(サーバ等)の所有をもってしか実現できないことが、世の中であまり意識されていないことにあると思います。

3.ネット社会の進展と弁護士の職業について

Q.セキュリティにもご精通されているとか。フォレンジックやeディスカバリもご存知ですか?

フォレンジックは証拠保管の完全性や、実績のある専用ツールの使用などが重要です。
eディスカバリについては、日本の会社が対象となることもありますし、それに適切に対応しなければ米国での裁判において制裁を受けることになりますし、多額の対応コストを負担することになります。もっとも、日本においてはこの分野が専門の弁護士はほとんどいないと思いますが。

Q.ネットでの情報流通で、ちょっとした相談事なら弁護士は不要といった場面も増えています。法科大学院も規模縮小の方向が示しているように、市場規模は縮小傾向。そうした時代の弁護士の生き残り方についてどう思われますか?

Exif_JPEG_PICTURE私は逆の発想で、アクセスしやすいリーガルサービスが増えるべきであると思っています。
弁護士というのは一般の人々にとって敷居が高く、現在でも弁護士に相談するほどの案件ではないと思って相談しない方は多いと思いますし、相談に来られてももっと早くに相談に来ればよかったのに…と思うことも多いです。インターネットの情報流通をきっかけにして、弁護士に相談した方が有利な解決ができるのではないか、法的リスクを検討してもらう方がよいのではないかと気づいていただければ、我々弁護士の活躍できる場が広がり、市場は拡大する可能性もあると思います。実際、事前にネットで調べてから相談に来られる方も増えています。
また、我々弁護士も法的サービスの多様化を図る必要があると思います。高額だが個別事情に対応した法的サービスまでは求めないが、より安価で標準的な法的サービスを求める方にも対応できる仕組みを考えなければならないと感じています。紛争や裁判になる前に弁護士に相談してもらった方が、標準的な法的サービスで足りる部分が多いですし、裁判になってから相談されるより絶対コストは安いわけですから。
ぜひ皆様にもリスクマネジメントとして弁護士をもっと活用していただきたいと思います。

 

<所感>
クリスマス用のオブジェも散見される、薄暮の街角から向かった、ビルの中の弁護士事務所。そして案内された応接室の机上には、六法全書が。屋外の冷気と対照的な、福本さんの爽やかな熱弁が響き渡りました。特に胆力には脱帽。ネット時代の弁護士のあり方といった、あえてぶつけた厳しい質問に対し、ポジティブな姿勢と堂々とした精緻な論陣で、相手を納得させる手腕に舌を巻きました。
昨今、こうしたお互いを高める、全体を発展させるのを目的とせず、我説を徹底して守り、相手を打ち負かすのがディベートだという風潮をよく見かけます。そんな中、久々に心地よい交歓が出来た事に、感謝の意を表したいと思います。
氏の今後のご健勝を祈念します。