2019年 7月 4日

会員番号 0655 荒牧 裕一(近畿支部)

1.テーマ 「医療機関における事業継続計画(BCP)と実践的訓練から学ぶリスクマネジメント」
2.講師    行政書士、危機管理士1級、医療経営士
 伊藤 聖子氏
3.開催日時  2019年5月17日(金) 18:30~20:30
4.開催場所  大阪大学中之島センター 2階 講義室201
5.講演概要

組織の事業継続を揺るがす要因には、大規模な事故や自然災害だけでなく普段の業務でも起こり得るトラブルも数多くある。その中で、医療機関でのリスクマネジメントは外部とのかかわり(連携先やステークホルダー、法的制限など)で災害時と平時での対応を変える必要もあり、他業種にも通ずるリスクコントロールも多い。本講演では、医療機関でのリスクマネジメントについて、神戸市内の診療所の事例に基づき説明していただいた。

(1)医療機関がかかえるリスクとは~BCP策定の準備~

リスクには、自然災害、感染症、法令・規則改正等の自ら防ぐことが出来ないものがある一方、情報漏洩、医療過誤、風評、安全配慮等の自ら防ぐことが出来るものもある。後者については確実に防ぐ対策が必要である。また、リスクを考え対策をするためには、「発生確率×影響度」に加え、「脆弱性(組織の体力)+リスクが顕在化する速度」も考慮しなければならない。
BCP策定の準備段階では、まず行動に移すための情報提供を行う。これについては、スタッフに安心感を与え「理解」を求めるために行う概要説明と、BCPを導入するためのWhat、Why、Howを伝えて「共感」を得るために行う勉強会を実施した。

(2)医療機関で行ったリスクの洗い出し

自然災害については、南海トラフ地震の被害想定や、行政が公開している大雨での川の氾濫予想等を活用する他、地域の他の医療機関数や住民数からどのくらいの患者を受け入れなければいけないかについても算定した。また、リスク対応において最優先されるのは命を守ることであるが、患者や自分の安全だけでなく、自宅の家族の安全が確保されないと従業員に出勤させることは難しいといった点にも留意する。
さらに、ボトムアップで現場の声を聴くためにアンケートを行った。「何が困りますか?」「解決策は何が考えられますか?」を記入するカードを配布して無記名でできるだけ多く記入してもらい、集まった意見について、予めできる準備と被災直後からの動きに分けて優先順位を付けながら取りまとめて表にした。このボトムアップによる気づきから、トップの知らない部分が見えてくる。

(3)リスク対策に実効性を持たせる

実効性を持たせるための主なポイントは次のとおりである。①「いつまで?」「どれくらい?」を定数化する。②できる対策から進める(倒れやすい物の固定、備品・持ち出し袋の準備、閉じ込め防止等)。③家族のサポートも始める。これはスタッフの参集率を高めたり、BCPへの協力度を強めるのにも有効である。

(4)考えなくてもよい仕組み

脳科学を取り入れて災害時に考えなくても良い仕組みを構築した。「発生直後からのアクションシート」は、シートのタイムラインに従って皆が同じ方向に進むためのツールである。「アクションカード」は、頭が真っ白になってもこれを上から実行すれば良いようにまとめたチェックシートである。

(5)実践的訓練から読み取る

災害を想定した実践的訓練を複数回実施し、平時と災害時の違いから知識と対応の幅を学んだ。訓練では役職ごとでチェックすべき項目をチェックポイントとしてまとめ事前に提示した。訓練後には振り返りで気づく反省をアンケートに記載してもらって情報共有し、次回の訓練に活かせるようにした。また、2回目以降はトリアージの実施、薬局との連携等を加えるなど、訓練内容も少しレベルアップさせていった。訓練実施直後はスタッフは「前回よりも上手くいった」と感じていたが、後から他人が検証するとレベルダウンしてた点もあったりした。

(6)瀬戸際でも法令遵守か

災害時での医療機関の対応については、保険診療等に関する法令等との関係も考慮しなければならない。例えば、災害時に保険証やお金を持たない患者を診察した場合には基金から10割の診療報酬が出るが、それには一定の条件が付くこともあり、その通達を待っていては対応が遅れてしまう。また、災害医療であっても患者への対応基準が緩められるわけではなく、事後に医療訴訟を起こされた事例もある。

(7)レジリエンス力を高めるためにすべきこと

リスクへの対処で大切なことは次のとおりである。①応用力のある人材育成を行い権限委譲する。②想定外に対応するために手引きやマニュアルを策定し定期的な更新をする。③危機対応は自社だけの問題ではないため関係機関との連携力を高める。
なお、デロイトトーマツ企業リスク研究所が行った、危機に直面した時の成功要因に関するアンケート調査によれば、過去に危機を経験していない企業の1~3位は「事前の準備(規程整備・訓練など)ができていた」「事前の組織の枠組み(危機対策本部設置など)ができていた」「情報収集・伝達ルートと収集情報の分析・判断のルールが整備されていた」であったのに対し、危機経験のある企業の1~3位は「トップのリーダーシップ、トップダウンでの迅速な意思決定」「初動で潜在的影響を過小評価せず、迅速に必要な資源を投入した」「トップダウン方針に従った現場のアクションがとられた」と、大きな違いを見せた。現実の危機時には、事前の準備だけでなく、トップダウン方式による迅速な対応が重要であったことが伺える。

6.所感

講師は、現在、医療機関でBCP策定(更新)及びリスク管理のための勉強会や、災害時対応を想定した訓練の企画・実施のサポート等をされており、SAAJ近畿支部のBCP研究プロジェクトの中核メンバーとしても活躍中である。これらの豊富な経験を基にした講演は非常に具体的であり、システムの運用業務等でも役立つノウハウが多かった。例えば「災害時に自宅の家族の安全が確保されないと従業員に出勤させることは難しい」といったポイントは実践からでないと得られないノウハウであり、非常に参考になった。

以上

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